悪性脳腫瘍に対する光線力学的療法

悪性神経膠芽腫に対する現在の標準治療は、手術により病変を最大限に摘出した後に放射線療法と化学療法(テモゾロミド)を加える治療で、その生存期間中央値(OS)は14.6ヵ月無増悪生存期間中央値(PFS)は6.9ヵ月とかなり不良です。そのため、次世代新治療の開発によりOS 20ヵ月 PFS10ヵ月以上が求められています。その中でもPDTはかなり有望な治療法と考えられています。

PDTは腫瘍選択的集積性をもつ光感受性物質に低出力レーザー照射を行うダブルターゲッティング治療です。薬剤とレーザーの物理的エネルギーともに単体では効果はなく、両者による光化学反応で発生する一重項酸素が殺細胞効果を示す複合治療です。通常の抗がん剤や放射線療法などのような重篤な有害事象が生じにくい低侵襲治療です。

脳腫瘍のPDTに使用される光感受性物質はレザフィリンです。
レザフィリンのレーザー照射波長は664nmで、従来PDTに使用されていたフォトフリンの630nmより34nm長波長側にあり、血液などのヘモグロビンの吸収の影響を受けづらく、組織への光の深達度が従来の光感受性物質に優っており、より高い治療効果が期待できます。

脳腫瘍の摘出範囲は、機能温存の面から制限があります。膠芽腫は周囲の正常脳組織に腫瘍が浸潤していることが知られており、初回手術摘出部位の周辺から再発を起こしてきます。膠芽腫に対するPDTは、腫瘍摘出後の周辺に残存する腫瘍細胞を選択的に治療して再発を抑えることを目的として行われます。実際の治療法は、手術24時間前にレザフィリンを静脈投与します。手術で腫瘍本体を摘出後に周辺の摘出腔壁にレーザー照射を行い治療します。

悪性脳腫瘍に対する機器・複合産品に関する日本初医師主導治験(承認申請のための第II相臨床試験)が行われました。
結果は初発膠芽腫の1年生存率100%、6ヵ月無増圧再発率(PFS) 100%、PFS中央値12.0 カ月、6ヵ月照射部位PFS 100%、1-year local PFS 91%、照射部位 PFS中央値 20.0 カ月と非常に良好な結果が得られ、2013年9月に薬機承認されました。

市販後の初発膠芽腫に関する後向き観察研究が行われ2018年に結果が発表されました。腫瘍摘出後PDT施行群とPDT未施行群を比較したところ、OSでは、PDT施行群で中央値27.4ヵ月、1年生存率95.7%(PDT未施行群、22.1ヵ月、72.5%)、PFSでは、中央値19.6ヵ月、6ヵ月PFS86.3%(PDT未施行群、9.0ヵ月、64.9%)とPDT未施行群に比較し有意に生存期間の延長を示しました。

市販後の再発膠芽腫に関する後向き観察研究においても、再発からの生存期間は、PDT施行群で中央値16.0ヵ月、1年生存率73%(PDT未施行群、12.7ヵ月、58.8%)、PFSは、PDT施行群で5.8ヵ月(PDT未施行群2.2ヵ月)とPDT施行群がPDT未施行群に比べ有意な生存期間の延長が認められ、予後不良である再発例においても長期に生存できる可能性が示された。

まとめ

  • タラポルフィン投与と664nm半導体レーザを用いたPDTは、重篤な副作用が稀な超低侵襲なダブルターゲッティング治療である。
  • PDTは、膠芽腫において第II相治験と共に市販後症例含めた後向き研究においても標準治療群と比較して良好な治療成績を示した。
  • 新規照射法開発や新規合併症対策を並行して進め、更なる悪性脳腫瘍の治療成績向上を目指す。