食道がんに対するPDT

放射線治療と抗がん剤治療を併用する治療である化学放射線療法 (Chemoradiotherapy: CRT)は、食道がんを治すことが出来る内科的治療である。CRTは、外科手術と比べると低侵襲で食道温存が可能という利点がある一方で、欠点として食道内局所にがんが治りきらずに残ってしまう(遺残)、または再発するリスクがある1)

食道がんに対してCRTを行うことで、がんは小さくなり一見治ったように見える。しかしながら、そのわずか数か月後で遺残または再発食道がんと診断されることがある。CRT後は、内視鏡でのこまめな経過観察が重要である。

食道がんに対するCRTは、食道周囲のリンパ節も放射線の照射に入れて治療をする。放射線が照射された範囲にあるリンパ節再発は極めて少ないことが報告されているため2)、食道内の遺残再発病変を治すことが出来れば、根治が目指せる可能性がある。

CRT後局所遺残再発食道がんに対する低侵襲で治療効果の高い強力なサルベージ治療として光線力学療法 (photodynamic therapy: PDT)を応用することが考えられた。PDTは、がん細胞に集積しやすい薬剤である腫瘍親和性光感受性物質と薬剤を励起するためのレーザー光を用いた治療方法である。

PDTの抗腫瘍効果のメカニズムは、がん細胞内に取り込まれた光感受性物質にレーザー光が照射されることで、光化学反応が引き起こされ一重項酸素を中心とした活性酸素が発生、活性酸素がアポトーシスやネクローシスを起こし組織を変性壊死させると報告されている。その他のメカニズムとして、がん周囲微小血管の塞栓作用や急性炎症による免疫賦活化などの作用が報告されている3)

国立がん研究センター東病院では、2002年から第一世代光感受性物質であるポルフィマーナトリウムを用いたPDTCRT後遺残再発食道がんに対するサルベージ治療として臨床導入した。固有筋層(T2)浅層までの深達度で、リンパ節や臓器転移がなく、外科手術不耐または拒否した患者さんを適応とした。治療成績としては、粘膜下層 (T1b)までの遺残再発で完全奏効 (Complete response: CR)割合75%T2では40%程度、5年生存割合は35%と良好な治療成績が得られた4)-6)。一方で、前向き臨床試験ではポルフィマーナトリウム投与後約1か月半の遮光をしていたが、32%の患者さんに日光過敏症を認めた6)

第二世代光感受性物質であるタラポルフィンナトリウムは、ポルフィマーナトリウムと比べると体内からクリアランスが早いため、遮光期間が約2週間と短く、日光過敏症も少なかった。また、励起に用いるレーザー機器も第一世代と比べると小型化し使いやすいレーザー機器になった。

第二世代PDTの食道癌への臨床導入を目指して京都大学で実施された食道がん細胞株を用いた基礎的検討では、抗がん剤に耐性のある細胞株においても腫瘍縮小効果を認めた7)。また、ビーグル犬を用いた動物実験では、食道に対するPDTで照射量を増やすについて組織障害の程度が強くなることが確認できた8)

第二世代PDTの食道癌に対する適応拡大を目的として、京都大学を中心に国内7施設で医師主導治験(研究代表者:武藤学、研究事務局:矢野友規)を実施した。医師主導治験には、26名の患者さんが登録され、治療が行われた。治療成績は、CR割合が88.5%で、特にT1b病変でのCR割合は100%であった。有害事象については、2週間の遮光期間で日光過敏症は1例も認めず、その他にも重篤な有害事象は認めなかった9)。医師主導治験による良好な治療成績の結果、第二世代PDTは2015年に化学放射線療法後または放射線療法後遺残再発食道癌に対する薬機法承認、保険適用が得られた。

具体的な治療方法は、① タラポルフィンナトリウム40mg/m2を静脈注射する。②注射投与の4-6時間後に病変に対して、内視鏡で確認しながらレーザー照射を行う。レーザーは、664nmの半導体レーザーを用いて、照射パワー密度150mW/cm2、照射エネルギー密度100J/cm2で治療を行う。翌日内視鏡観察を行い、照射漏れによる遺残の所見があれば追加のレーザー照射を行う。

実際の治療経過を提示する。A:胸部中部食道前壁に、隆起性病変の形態で認める化学放射線療法後再発病変、深達度はT1b深部浸潤と診断した。B: タラポルフィンナトリウム40mg/m2を静脈注射後、半導体レーザーを照射した。C:1週間後、レーザー照射部位に一致して紫色の変色した虚血性変化を認める。D: PDTから2か月後レーザー照射部位は瘢痕化し生検でがん陰性でCRと診断した。

日本食道学会が編集、出版している過去の食道癌診療ガイドラインでは、PDTは治療選択肢の一つして、解説文に記載される治療に留まっていた。2022年版においては、CRT後遺残再発食道癌に対する内視鏡治療についてのクリニカルクエスチョンが設定され、PDTは多施設前向き試験での高いCR割合や侵襲度の低さからT1bの遺残再発病変に対する治療として推奨される初めての内視鏡治療になり10)、今後の普及が期待できる。

文献

1)Takeuchi H, Ito Y, Machida R, et al. A Single-Arm Confirmatory Study of Definitive Chemoradiation Therapy Including Salvage Treatment for Clinical Stage II/III Esophageal Squamous Cell Carcinoma. (JCOG0909 Study). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2022;114(3):454-62.

2)Onozawa M, Nihei K, Ishikura S, et al. Elective nodal irradiation (ENI) in definitive chemoradiotherapy (CRT) for squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus. Radiother Oncol. 2009 Aug;92(2):266-9. doi: 10.1016/j.radonc.2008.09.025. Epub 2008 Oct 24.

3)Castano AP, Mroz P, Hamblin MR. Photodynamic therapy and anti-tumour immunity.

Nat Rev Cancer. 2006 Jul;6(7):535-45.

4)Yano T, Muto M, Minashi K, et al. Photodynamic therapy as salvage treatment for local failures after definitive chemoradiotherapy for esophageal cancer. Gastrointest Endosc. 2005 Jul;62(1):31-6.

5) Yano T, Muto M, Minashi K, et al. Long-term results of salvage photodynamic therapy for patients with local failure after chemoradiotherapy for esophageal squamous cell carcinoma

Endoscopy. 2011 Aug;43(8):657-63.

6)Yano T, Muto M, Minashi K, et al. Photodynamic therapy as salvage treatment for local failure after chemoradiotherapy in patients with esophageal squamous cell carcinoma: a phase II study. Int J Cancer. 2012 Sep 1;131(5):1228-34.

7) Ohashi S, Kikuchi O, Muto M, et al. Preclinical validation of talaporfin sodium-mediated photodynamic therapy for esophageal squamous cell carcinoma. PLoS One. 2014 Aug 4;9(8):e103126. doi: 10.1371/journal.pone.0103126. eCollection 2014.

8) Horimatsu T, Muto M, Yoda Y, et al. Tissue damage in the canine normal esophagus by photoactivation with talaporfin sodium (laserphyrin): a preclinical study

PLoS One. 2012;7(6):e38308. doi: 10.1371/journal.pone.0038308. Epub 2012 Jun 13.

9) Yano T, Kasai H, Muto M, et al. A multicenter phase II study of salvage photodynamic therapy using talaporfin sodium (ME2906) and a diode laser (PNL6405EPG) for local failure after chemoradiotherapy or radiotherapy for esophageal cancer. Oncotarget. 2017;8(13):22135-44.

10) 食道癌診療ガイドライン 2022年版 特定非営利活動法人 日本食道学会編