開発の経緯

低出力レーザー照射と腫瘍親和性光感受性物質(photosensitizer: PS)とを併用した癌の光線力学的治療法 (Photodynamic Therapy: PDT) は1978年Doughertyらによりヒト乳癌の皮膚転移巣に応用されて以来1)、臨床研究開発されてきた。我が国ではPSであるフォトフリン® (Photofrin®: porfimer sodium)とエキシマ・ダイ・レーザー装置を使用した第1世代のPDTが、中心型早期肺がんに対して1994年に厚生省に認可され1996年より保険収載された。続いてフォトフリン®とYAG-OPOレーザー装置が1999年に保険収載された。

しかし、第1世代のPDTの問題点として、フォトフリン®の唯一の副作用である皮膚日光過敏症(日焼け)が長期に続くこと2)、エキシマ・ダイ・レーザー装置やYAG-OPOレーザー装置が大型で高価格であることが挙げられた。そこで、日光過敏性が低いPSと小型レーザー装置の開発が進められ、第2世代の光感受性物質レザフィリン® (Laserphyrin®: Talaporfin sodium, 明治製菓ファルマ㈱)と、それに対応した小型でメインテナンスフリーの半導体レーザー装置を使用した早期肺癌に対するPDTが2003年に厚生労働省より認可を受け2004年より保険収載された。現在はこの第2世代の光感受性物資であるレザフィリン®が肺がんのPDTにおいて使用されている。

PDT の最も良い適応は早期肺がん(early stage lung cancer: ESLC)であり、完全寛解を目的として行われている。早期肺癌に対する内視鏡的PDTは手術を回避することができ、患者にとっては非常に低侵襲な内視鏡的治療法であるといえる。

レザフィリンの特徴について

多くのPSが今までに研究開発されたが、その中で日光過敏性も少なく治療効果も良好なPSで有望であったのがレザフィリン®である3)。レザフィリン®は、664nmに光吸収体を持つ、クロリン環を骨格とする分子量799.69の暗緑色の水溶性物質である。生理食塩水で1.0mg/ml に溶解し静脈投与される。臨床第II相試験における皮膚光感受性試験における皮膚過敏性に関しては、Grade1: 10.0%, Grade 2: 0%で、フォトフリン®のGrade1: 28.8%, Grade 2: 1.9% に比較し非常に軽微なものであった3)4) 。レザフィリン®投与2週間後までに84.8% の症例で光に対する反応性が消失することが確認され、3週間後までには全ての症例で光に対する反応性が消失した5)。

臨床試験の治療成績

レザフィリンを用いた国内での臨床第II相試験の結果、病変別の著効率84.6%および奏効率94.9%と良好な成績を示し、フォトフリン®の臨床第II相試験の結果の著効率84.8%および奏効率94.9%と同等な治療効果であった。PDTの適応と考えられている1cm以下の腫瘍に対して推奨されているが5)、レザフィリンはフォトフリンより長波長のレーザーを使用するため1cmを超える腫瘍に対しても良好な治療効果が得られることが分ってきた6)。臼田らの報告では、腫瘍長径1cm以下の病巣と1cmを超える病巣のCR率は94.0%と90.4%であり、1cmを超える病巣に対する有効性が示されている(表)。

表:腫瘍サイズ別PDTの成績

Ikeda N. et al. Lasers in Surg and Med 43:749-754, 2011より改変

肺がんに対するPDTの診療ガイドライン

肺癌診療ガイドライン2022年版では、中心型早期肺がんに対するPDTは腫瘍径1.0cm以下に推奨されているが7)、今後、適応腫瘍サイズに関するガイドラインの見直しも必要になってくると考えられる8)。

CQ22.中心型早期肺癌に光線力学的治療法(PDT)は勧められるか?

推 奨

中心型早期肺癌の中で,腫瘍全体にレーザー照射が可能な長径1.0cm以下の病巣を対象に行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:64%〕

リンク先:https://www.haigan.gr.jp/guideline/2022/1/2/220102020100.html#cq22

肺がんに対するPDTの今後(適応拡大)

1)末梢小型肺癌に対するPDT

近年、CTの発展とともに小型の末梢肺癌の発見が近増加してきているため、高齢者で手術困難例の末梢小型肺がんに対するPDTが注目されている9)。現在は、気管支鏡ナビゲーションシステムによって、レーザープローブを正確に病変にもっていく技術が開発されたため、末梢小型肺癌に対するPDTが可能になった。腫瘍サイズ2.5cm以下の末梢小型肺がんに対する臨床第II相試験がほぼ終了し、データの解析が進められている。将来は、GGOを主体とする末梢小型肺癌に対する低侵襲治療法として、PDTが外科手術に代わって中心的な役割を果たす時代が来る可能性が高い。

リンク先:https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031200040
リンク先:https://nms-thoracic-surgery.com/trial/

2)進行肺がんに対する化学療法と免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の併用

進行肺がんに対して、現在は化学療法や放射線療法とPD-1抗体やPD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を併用した治療が主流になってきている。また、化学療法とPDTの併用療法の有効性も示されているため、化学療法+PDT+ICIの併用療法が注目されている。PDTによる腫瘍腫瘍免疫の賦活化、つまりphoto immuno-primingによりPD-L1発現の少ない腫瘍(Cold tumor)をPD-L1の発現の多い腫瘍(Hot tumor)に誘導することにより、ICIの効果を高めることができると考えられている。

PDTで破壊された多くの癌細は、第1段階として抗原提示細胞である腫瘍関連マクロファージや樹状細胞などの細胞による貪食が促進され、引き続き腫瘍免疫が賦活化していく10) 。腫瘍免疫の賦活化により、PDTで治療した病巣局所にとどまらず、転移巣にも効果を及ぼすと考えられる。それ故、PDTは局所治療ではあるが、腫瘍免疫誘導による全身的効果も期待できる。ICIとPDTとの併用療法は、新しい癌の光治療戦略として注目されている。

3)悪性胸膜中皮腫

悪性胸膜中皮腫は、標準的治療法はなく予後が非常に悪い疾患である。外科手術として胸膜外肺全摘術や胸膜剥皮術(Pleurectomy/Decortication: PD)が行われているが、肉眼的に完全切除できたと思っても、顕微鏡的に腫瘍が残存していることが多く、外科切除単独では生存率に寄与するとはいえない。これらの遺残腫瘍を治療する目的で、欧米では以前から術中PDTの臨床研究が進められてきており11)、現在第Ⅱ相試験が行われている。

リンク先:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02153229

文献

1) Dougherty T.J., Lawrence G., Kaufman J.H. et al. Photoradiation in the treatment of recurrent breast carcinoma. J Natl Cancer Inst 62:231-237,1978.

2) Dougherty TJ, Cooper MT, Mang TS. Cutaneous phototoxic occurrences in patients receiving Photofrin. Lasers Surg Med 10:485-488,1990.

3) Kato H, Furukawa K, Sato M, et al. Phase II clinical study of photodynamic therapy using mono-L-aspartyl chlorin e6 and diode laser for early superficial squamous cell carcinoma of the lung. Lung Cancer 42:103-111,2003.

4) Furuse K, Fukuoka M, Kato H, et al. A prospective phase II study on photodynamic therapy with photofrin II for centrally located early-stage lung cancer. The Japan Lung Cancer Photodynamic Therapy Study Group. J Clin Oncol 11:1852-1857,1993.

5) Furukawa K, Kato H, Konaka C, et al. Locally recurrent central-type early stage lung cancer < 1.0 cm in diameter after complete remission by photodynamic therapy. Chest 128:3269-3275,2005.

6) Usuda J, Ichinose S, Ishizumi T, et al. Outcome of photodynamic therapy using NPe6 for bronchogenic carcinomas in central airways >1.0 cm in diameter. Clin Cancer Res 16:2198-204, 2010.

7) 肺癌診療ガイドライン2022年版(編:日本肺癌学会)p119-120、2022年(金原出版、東京)

8) Ikeda N, Usuda J, Kato H, et al. New Aspects of Photodynamic Therapy for Central Type Early Stage Lung Cancer. Lasers Surg Med 43:749-754,2011

9) Usuda J, Inoue T, Tsuchida T, et al. Clinical trial of photodynamic therapy for peripheral-type lung cancers using a new laser device in a pilot study. Photodiagnosis Photodyn Ther. 2020; 30: 101698. doi: 10.1016/j.pdpdt.2020.101698.

10) Castano AP, Mroz P, Hamblin MR. Photodynamic therapy and anti-tumour immunity.
Nature Rev Cancer 6:535-545,2006.

11) Friedberg JS, Culligan MJ, M Rosemarie, et al. Radical pleurectomy and Intraoperative photodynamic therapy for malignant pleural mesothelioma. Ann Thorac Surg 93:1658-1667,2012.