1.目的
本安全ガイドラインは、早期肺癌を対象としたPDTを施行する際の患者及び医師・医療従事者の安全性を確保することを目的に遵守事項をまとめたものである。
2.PDTを施行するための医療機関・医師の条件
1)医療機関の条件
早期肺癌を対象としたPDTを施行するためには、PDT施行に必要十分な気管支鏡、レーザ装置などの設備・機器を有するとともに、当該設備・機器の取扱いに習熟し、かつPDTに用いる薬剤に関する知識を有する下記2)の医師が所属している医療機関で実施することが必要である。 なお、補助的な診断装置として超音波診断装置、CT装置などを有していることが望ましい。 このような医療機関として、日本レーザ医学会の認定施設、日本呼吸器内視鏡学会の認定施設が適切である。当該認定施設では気管支鏡検査に必要な設備・機器を有し、年間100症例以上の気管支鏡手術の経験を持つことと規定されている。
2)医師の条件
PDT施行医は、日本光線力学学会会員、日本呼吸器内視鏡学会の認定医・指導医、日本レーザ医学会の専門医・指導医であることが必要である。
3.添付文書、取扱い説明文書の熟知、保管ならびに遵守
PDTを施行しようとする医師・医療従事者は、PDTに用いる医薬品(フォトフリン注、注射用レザフィリン100mg)及びレーザ装置(フォトフリン注専用のレーザ装置としてエキシマダイレーザ PDT EDL-1・ PDT EDL-2、YAG-OPO レーザー1000、注射用レザフィリン100mg専用のレーザ装置としてPDレーザ)に関する添付文書や取扱説明文書を熟読しなければならない。また当該医療機関は、当該文書類を、PDTを施行する場所に、常時閲覧できるよう保管しなければならない。
医療機関の開設者は、レーザ装置の保管管理者に添付文書の記載内容を遵守させ、レーザ装置の保管管理者は装置使用者に上記添付文書の記載内容を遵守させなければならない。また、万一医薬品の副作用あるいはレーザ装置の故障等の場合は速やかに製薬メーカーあるいはレーザ装置の販売業者または製造業者にその副作用・故障の内容を連絡すると共に、必要に応じて監督官庁にも報告しなければならない。
4.PDTの対象となる早期肺癌
早期非小細胞肺癌の治療法の第一選択は外科的切除とされているが、多発重複癌の発生があること、もともと呼吸機能が低下している患者が多いことから、呼吸機能の温存を図る治療法が重要視されてきている。最近、PDTは呼吸機能を温存する治療法として良好な成績が報告され、外科的切除に次ぐ治療法として紹介されている。1)2)3)4)
1)PDTの対象となるのは、効能・効果として、外科的切除等の他の根治的治療が不可能な場合、あるいは、肺機能温存が必要な患者に他の治療法が使用できない場合で、かつ、内視鏡的に病巣全容が観察でき、レーザ光照射が可能な早期肺癌(病期0期又はI期肺癌)と規定されている。
2)早期肺癌の内視鏡的診断基準及び内視鏡的所見については、肺癌取扱い規約2003年10月【改訂第6版】5)に詳細に記載されているのでそれを参照すること。
5.PDT施行を安全に行うための留意事項
PDT施行を安全に行うために遵守すべき事項を治療の流れにしたがって下記の通り列記する。
1)治療前の検査
効能・効果に該当することを前述の早期肺癌の内視鏡的診断基準及び内視鏡的所見にしたがって確認すること。PDTの適応となるのは、長径1cm以下で内視鏡的に末梢辺縁が確認でき、生検標本で浸潤が気管支軟骨層にまでにとどまる腫瘍である。長径が1cmより大きい腫瘍、内視鏡的に末梢辺縁が確認できない腫瘍では外科的切除など根治的治療が可能な場合はこれらの治療を優先すること。 末梢血液、生化学、凝固、感染症のほか、呼吸機能、血液ガスなど内視鏡検査に必要な項目、肺機能に関する評価を行なっておくこと。PDTに用いる薬剤が胆汁排泄型であることから、特に肝機能に注意しておくこと。
2)PDT施行前の機器の点検
薬剤投与前の始業時点検(使用前の目視点検、動作チェック)を必ず実施し、動作に異常のないこと及びパワーチェックを行うことによりレーザ光出力を確認すること。パワーチェックの結果、レーザ光出力が大幅に低下していた場合はプローブと本体部との接続状態の確認及びプローブ先端部や接続用コネクタ部の汚れがないことを確認し、再度パワーチェックを行うこと。 なお、プローブは消耗品であるので、毎回プローブを交換することが望ましい。また施行中にプローブの破損等によりレーザ光出力が低下をきたす恐れがあるため、常に予備のプローブを準備しておくこと。
3)薬剤の調製、投与
フォトフリン注の場合は1バイアル(75mg)あたり日局5%ブドウ糖注射液30mLを加えて溶解、2.5mg/mL溶液を調製する。注射用レザフィリン100mgの場合は1バイアル(100mg)に日局生理食塩液4mLを加えて溶解する。いずれも着色が強いので十分に攪拌して溶解していることを確認すること。フォトフリン注の場合は2mg/kg、注射用レザフィリン100mgの場合は40mg/m2(約1mg/kg)を静脈内にゆっくりと注射する。投与量の確認は必ず複数の医療従事者で行うこと。
4)投与後の管理(特に光線過敏症を避けるために)
PDTに用いる医薬品は光感受性を有するため、光線過敏症を防ぐため、遮光カーテンなどで直射日光を避け、照度をコントロールした室内に過ごさせる必要があり、フォトフリン注の場合は100ルクスから300ルクスに、注射用レザフィリン100mgの場合は500ルクス以下にするよう規定されている。 また、クロレラ加工品やドクダミ、セロリなど大量に摂取すると光線過敏症が強く現れる恐れのある食品の摂取や、外出時の注意などを記載した患者への説明文書(注射用レザフィリン100mgの場合は、PDT施行の手引き、フオトフリンの場合はPDT施行時・施行後の患者管理)を患者に説明・理解させて、所持させておくこと。
5)PDT施行時
- PDT施行時は、患者、医師・医療従事者は保護眼鏡を着用し、レーザ装置の取扱説明書にしたがって照射を行なう。呼吸性移動や心拍動に注意し、常に腫瘍部位に一定のレーザ光を照射すること、病巣の周辺部以外の正常組織への照射は極力抑えるよう注意すること。
- PDT施行中に患者の状態に異常をきたしたときは、照射停止スイッチを押して照射を中断してから内視鏡を取り出すこと(この場合、照射時間などの照射条件は記憶されているので、患者の状態が回復してから、照射開始スイッチを押すと照射を継続することが可能である)。
- PDT施行中に明らかにレーザ出力など装置が異常であると思われたときは、先ず照射停止スイッチを押して照射を中断してからそれまでの照射時間などの照射条件を記録し、プローブを内視鏡から抜去した後、装置を点検すること。装置点検後、照射を再スタートする場合はそれまでの照射条件が保持されている場合は照射開始スイッチを押すと照射を継続すること(それまでの照射条件が保持されていない場合は記録していた照射時間などの照射条件を確認してから照射を行うこと)。
- 酸素吸入を行いながらPDTを施行する場合、通常の大気酸素濃度で施行すること。
6)PDT施行後
PDT施行後は、定期的に内視鏡検査、細胞診、組織診等を行い、病巣の経過を観察すること。また、その際、壊死物質、凝血塊、痰等の吸引除去を行うこと。
7)遮光制限期間の管理
薬剤投与後、添付文書の記載にしたがい、フォトフリン注の場合は1ヵ月後、注射用レザフィリン100mgの場合には2週間後に光線過敏反応試験を行なうこと。光線過敏反応陰性の場合は、日常生活に戻り、陽性の場合は更に陰性になるまで遮光制限を行うこと。注射用レザフィリン100mgの場合、2週間後に光線過敏反応が陰性となり日常生活に戻っても、投与後4週以内の外出に際しては帽子、手袋、長袖等の衣類やサングラスを着用すること。6)
8)インフォームドコンセントの実施
副作用、合併症などのインフォームドコンセントを充分に行うこと。
6.PDTに用いる医薬品・レーザ装置の納入業者の遵守事項
1)添付文書、取扱い説明書などの資料提供の義務
PDTに用いる医薬品・レーザ装置を販売・供給する業者は、医薬品・レーザ装置の納入にあたり、納入医療機関ならびに医師・医療従事者に、適正使用のために必要十分な添付文書、取扱説明書、患者への説明文書などの資料を提供するとともに、十分な説明を行なわなければならない。7)8)9)また、PDT手技ビデオなどを用いた技術講習会を単独あるいは関連学会の協力を得て開催し、PDT施行が安全かつ効果的に行なわれるよう配慮しなければならないこと。
なお、レーザ装置に添付する添付文書及び取扱説明書に記載すべき内容は、昭和55年4月22日厚生省薬務局審査課長通知 薬審第524号【レーザー手術装置について】10)の別紙【レーザー手術装置の使用上の注意事項】を準用すること。また、保守点検に関して、【本装置は始業時点検(使用前の目視点検、動作チェック)、使用中点検(正常動作しているかチェック)、及び終業時点検(使用後、次回に備えての整備と清掃)を行うこと。】を記載すること。
2)レーザ装置納入時の確認事項と確認書の発行
レーザ装置の納入にあたっては、平成3年8月6日厚生省薬務局医療機器開発課事務連絡 審査実務連絡11)の別紙2【製造業者又は販売業者の遵守事項】に準じ、下記事項を確認し、販売・供給業者の担当者と納入医療機関の装置の管理者及び使用者が署名捺印した確認書を2通作成し、両者が各1通保管するものとすること。
3)レーザ装置納入時の確認事項
- 装置保管管理者(正・副最低2名)が定められていること。
- 装置使用者登録名簿が作成されていること。
- 装置使用予定者が日本呼吸器内視鏡学会、日本レーザー医学会の専門医・指導医などの資格を保有しており、管理者によって指定されていること。
- 薬剤及び装置の操作法、安全管理法、危険防止法や手技などの技術講習会を受講していること。
- 装置の電源が鍵によって投入できるものにあっては鍵の保管の方法を定めること。
- 装置の波長に適合した専用の保護メガネが備え付けられていること。
- 保護接地端子が確保されていること。
参考文献
1)国立がんセンターホームページの非小細胞肺癌の治療情報
2)NCI(米国国立がん研究所)ホームページの非小細胞肺癌の治療情報
3)Furuse K, Fukuoka M, Kato H, Horai T, Kubota K, Kodama N, et al. A prospective phase II study on photodynamic therapy with photofrin II for centrally located early-stage lung cancer. J Clin Oncol 1993; 11: 1852-7. Abstracts
4)EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版 金原出版
5)臨床・病理肺癌取扱い規約2003年10月【改訂第6版】日本肺癌学会編 金原出版2003
6)奥仲哲弥、島谷英明、加藤治文:肺癌に対するPDT.PDTハンドブック11-26医学書院 2002
7)本工業規格【JIS C6802:1997(レーザ製品の安全基準)】
8)医用レーザー臨床応用安全使用指針1988(日本レーザー医学会、日本医科器械学会)
9)【レーザ安全ガイドブック第3版(監修:通商産業省工業技術院、編集:(財)光産業技術振興協会、発行:新技術コミュニケーションズ)】
10)昭和55年4月22日厚生省薬務局審査課長通知 薬審第524号【レーザ手術装置について】
11)平成3年8月6日厚生省薬務局医療機器開発課事務連絡 審査実務連絡91-7【レーザー手術装置の治験データの添付免除について】